人生の楽しい終わらせ方


 1

ごおおう、と、圧力を感じる轟音が、横を通りすぎる。

JRだろうがなんだろうがかかわりなく、駅から出る車両はすべて『汽車』と呼ぶのが、この館町(やかたまち)市だ。
そう知ったのはつい最近のことだが、ともかく、カナタは地面に座り込んで、五両編成の列車が踏み切りを通るのを眺めていた。

かあんかあん、とうるさかった警報音が、ふと消える。
手のひらに、砂利が食い込んでいる。
それを大雑把に払って立ち上がると、隣でへたり込んでいた人が、顔を上げた。


「……なにすんの」
「あれ? 目、青くなかった」
「は? なんで助けたの」
「死にたかったの?」


びっくりするぐらい細い手足のわりに、顔立ちは幼くない。
栗色の髪にはところどころに暗い青が混ざっていて、なんとなく東洋人離れして見えたのだが、それは気のせいだった。
目はくりっと大きいが、どう見ても日本人だ。
真っ黒い瞳が、カナタを見て、風船が割れるみたいな瞬きをする。


「いやー……別に」


カナタが見かけたとき彼女は、バーの下がった踏み切りの中で、迫る列車に対峙して、空を仰ぎ見ていた。

まず、髪の色が目を引いた。
それから、チェックのシャツ。
そして、ゆるりと開いた瞳に、空の色が映って、真っ青に見えた。
だからカナタは、咄嗟にバーを潜ったのだ。

結局青い目は錯覚だったが、青い髪の彼女は、線路を指差して言う。


「サンダル、線路に引っ掛かっちゃって……外れないし、もういいかなってなっちゃって」
「サンダル?」
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