人生の楽しい終わらせ方


そんなものを思い浮かべて、カナタは、ふっと視線をずらした。
おもむろに立ち上がる。
ずっと手付かずのままのシャワールームへ入って、割れた鏡の破片を拾い上げた。
放射状に割れているので、先端が鋭く尖っているものがいくつも落ちているのだ。

指に軽く突き立てる。
切れ味は良さそうではないが、ちくりとした痛みはあった。

破片を手に、カナタはサエキの隣へと戻った。
顎に指をかけて、くい、と持ち上げる。
薄暗いのでよく見えないが、不思議そうな顔をしているのはわかった。


「カナタ?」
「サエキさんなら、心臓に真っ直ぐ刺しそうだね」
「え?」
「本当は、ここはそんなに出血しないんだけど」


鎖骨の辺りに、破片の先端を沿わせる。
暗いせいか、彼女の白い肌は、まったく色がないように見えた。
少し上を向いたまま、サエキの唇が動く。


「カナタ、なに」
「失血死なら頸動脈じゃない、やっぱり」
「やだ、ねえ、なにしてるの」
「なにって」


サエキが慌てた声を出したので、カナタはわずかに笑い混じりに言った。
胸元から首筋、顎と、破片を滑らせていく。
サエキの肌に傷をつけてしまったかどうかは、暗くて見えなかった。

ゆっくりと這うように、破片が頬へと移動する。
サエキの目が、きょろりと動いて、カナタの手にある、月明かりを映したものを見た。

その時だった。

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