人生の楽しい終わらせ方


「ひやぁっ!!」


喉が引き攣れたような、短い悲鳴を上げて、サエキがカナタの手を振り払ったのだ。

ぱしっと軽い音がする。
頬をなにかが掠めて、カナタはぱっと顔を逸らした。
「あ、」と声を上げて、サエキがカナタの手を取った。


「ごめん! だいじょうぶ!?」
「え、俺は平気だけど……サエキさんは」


お互いにお互いの手をまじまじと見つめてしまう。
それがなんだかおかしくなって、顔を上げた。
同じタイミングで、サエキと視線が出会う。
吹き出す前に、その小さな手が伸びてきた。


「ここ、切れちゃってる……」
「え?」


さっき頬に当たったのは、やはりカナタの手から飛んだ鏡の破片だったようだ。
自分では見えるはずもないが、言われるとなんとなく痛い気がしてくる。
実際には、サエキの視線で右頬だということがわかったくらいで、正確な位置すらわかっていないのだが。

カナタの顔に指先で触れながら、サエキは眉尻を下げた。


「ほんとにごめん」
「いや、全然」
「血出てるよ」


頬を伝い落ちる感触もないということは、きっとたいした出血ではないのだろう。
それでも彼女は、困った顔をしていた。

もとはといえばカナタのほうが、サエキをちょっとからかってやるつもりで、鏡の破片なんて持ってきたのだ。
真っ暗な中、自分からは見えないところで、尖ったものが肌をなぞっていたら、怖くて当たり前だろう。
少し過剰な怯えようだったかもしれないが、脅かそうとしたのはこっちなのだ。
カナタのほうが謝ることはあっても、サエキに謝られる理由はない。

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