人生の楽しい終わらせ方
血が出ているという言葉に、テーブルの上にウエットティッシュがあったのを思い出して、カナタは立ち上がろうとした。
サエキの悲しげな視線から、なんとなく逃れたくなったのもある。
だが、腕を引かれ、すぐにまた座り込むことになった。
「サエキさん?」
一度離れた指先が、再び頬を滑る。
サエキが顔を寄せてくるのを、カナタはただ、見ているしかなかった。
反応が遅れたのは、間近にある伏せた睫毛を、なんとなく眺めてしまったせいだ。
「……ってぇ!」
熱くて、濡れていて、柔らかいものが、頬を這っている。
サエキに舐められている、ということよりも、ぴりっと鮮烈に痛んだ傷のほうが、カナタの意識を引いた。
血を舐め取られる。
肩を押さえつけて、真新しい傷をなぞって、舌先で抉られる。
体ごと引こうとするが、サエキに体重を預けられているので、引き離すことができない。
「ちょっと、サエキさ……っ」
「……ん」
舌を出したまま、ほとんどゼロに等しい距離で、サエキと目が合った。
暗いはずなのに、歯の間に真っ赤な舌が引っ込んでいくのが見えた。
その動きと目付きが、あまりにも官能的で。
信じられないものを見るようなカナタの目に、サエキは上目遣いで応えた。
「……痛い?」
カナタは、無言で頷いた。
頬のすぐ横で、サエキが喋っている。
濡れた傷口に息がかかって、背筋がぞわぞわとした。
彼女がさっき食べていたバニラアイスの香りが、ほのかに香っている。
目許から視線を下げてしまいそうになるのを堪えて、カナタは答えた。