人生の楽しい終わらせ方
9
自分の部屋の、自分のベッドに、電気も点けずに倒れ込んで、カナタは溜め息を吐いた。
さっきからずっと、胸と腹の中間あたりがもやもやとして、気分が晴れない。
いや、さっきからではない。
本当かはずっとそうなのに、しばらく気づかないふりをしていたのだ。
それは夏の終わり、サエキと会った頃からはじまっていた。
シーツに埋めていた顔を、横に向ける。
カーテンの引かれていない窓から、月が見えた。
相変わらず、薄い雲に覆われている。
海の山に挟まれているせいか、館町では、雲一つない空というのは珍しいようだ。
不意に鳴った電子音に、カナタは視線を下ろした。
低いテーブルの上で、緑色の小さなランプが光っている。
携帯電話に着信があったらしい。
あまり鳴ることもないからと、初期設定のまま変えていない、色と音。
指先一本動かさずに、それをただ眺めていた。
話し相手のいない電話はやがて切れ、ただランプが光り続ける。
電話に出る気も、誰からの着信なのか確認する気も、少しも起きなかった。
だがほったらかされたままの携帯電話は、今度は小さなランプを青く光らせる。
メール受信だ。
それで、誰からの着信なのか、理解した。
電話に出ないからといってメールを送ってくるような知り合いは、一人しかいない。
カナタは、ゆっくりと体を起こした。