人生の楽しい終わらせ方
床の拭き掃除をしていると、インターホンが鳴った。
今日はさすがに、なにかするたびにくらくらしてしまっている。
久々の感覚だ。
訪問者は、宅配便の業者だった。
なんだっけ、と考えながら、玄関のドアを開ける。
外から入ってくる光が少し和らいでいて、いつのまにか夕方になっていることに気づいた。
貧血状態での乾いた血液の掃除は、思いのほか時間と手間と気力を奪う。
なんとなく、目を合わせなかった。
伝票にサインをする時に左の袖を気にする仕草が、かえって不自然な気がして、ちらりと視線をあげる。
色の黒いその人は、一瞬だけ見えたカナタの顔に、少しだけ目をみはった。
あまりにも顔色が白くて驚いたのだろう。
キッチンで見つけた菓子パンを一つ持って、血の匂いの残る部屋へと戻った。
昼過ぎに起きてから、まだ水しか口に入れていなかったことを思い出したのだ。
しっとりクリームパンと書かれたパンは、別にしっとりしていない。
おざなりに食事をしながら受け取った荷物を開けると、ダンボール箱の中からはショップロゴの書かれたダンボールがもう一つ出てきた。
そこまで見てもまだ思い出せないのは、きっとずいぶん前にした注文だからだろう。
ロゴのデザインや箱に書かれた説明などを見るに、海外のショップからの買い物に違いない。
中にはペンケースや眼鏡ケースに似た横長の革製の袋が、ビニール袋にくるまれて入っていた。
手に取ると、ペンや眼鏡よりははるかに重い。
なにを買ったのか、はっきりと思い出したのは、中身を取り出そうとした瞬間だった。