人生の楽しい終わらせ方


さっきからずっと、ポケットに突っ込まれっぱなしの手。
細くて綺麗で冷たくて、あまり見せてくれなくて、サエキはそれが少し気に入っている。

パーカーの袖を、くい、と引いた。
カナタが振り返った瞬間、悪戯が見つかったみたいに、どきりとする。
珍しく合った目をじっと見ていると、カナタが瞬きをした。


「……なに?」
「ん? んっと……手繋いでいー?」


小首を傾げる仕草に、少し緊張する。


「なんで?」
「好きなの、人の手触るの」


ふうん、とまた気のない返事をして、カナタは「いいけど、」と、口籠った。
ちらりと、後ろを一瞥する。
つられて振り向きそうになったサエキの腕が、軽く引かれた。


「こっち」


カナタがビニール袋を持ち変える。
その右手と、サエキの左手が触れた。

男性的なごつさのない、けれど女性的な滑らかさもない、冷たい指先。
思ったよりも大きくて、少し骨ばっている。
サエキがそこに手を潜り込ませると、弱い力で握られる。

その瞬間、カナタの横顔が黄色い光に照らされた。
すぐ横を、黒い車が通り過ぎて行く。
歩道のない、狭い道だ。


「……あ、」


――また、どきりとした。

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