人生の楽しい終わらせ方
少し錆びた、緑色の街灯の下で、サエキは立ち止まった。
海風の吹かない場所のないこの町では、自動車も自転車も街灯もポストも、すぐに錆びてしまう。
潮の香りのする風を、時々厄介に思う理由の一つが、それだった。
サエキの手に引かれて、カナタも立ち止まる。
「私の家、そこ曲がったとこ」
「……そう」
送ってくれてありがとうと素直に言えばいいのに、やはりそんな言葉は出てこない。
カナタはなにも言わずに隣を歩いていたのだから、きっと、なにも言わずに別れるのだろうと思ったのだ。
立ち止まるきっかけは見つけられたのに、なぜだか、サエキから手を離すのは躊躇われた。
別に、勝手に繋いで勝手に離すなんて、と思ったわけではない。
そんなことは少しも気にしないほどにはサエキは大雑把な性格だし、わがままなところもあると自覚している。
単純に離したくなかったのだ、と気付いたのは、随分あとになってからだった。
「それじゃあ」
カナタから動くのを待ってはいたが、あまりにあっさりと離れていった低い体温に、なんとなく物足りなさを感じた。
淋しく思った、とも言える。
背を向けたカナタが振り返って、目が合った。
口を開いたので、なにを言われるのかと一瞬待つ。
「おやすみ、……千空ちゃん」