人生の楽しい終わらせ方
たぶん、そう感じたのは、サエキだからだ。
本当はきっと、困ったような戸惑ったような、泣きそうな怒った顔をしていたのは、サエキだった。
なぜだかはわからない。
わからないが、カナタに名前を呼ばれて、カナタの名前を呼んだことに、きっと関係があるのだろうと思っていた。
横顔だったはずが、いつの間にかすぐ近くで、こっちを向いている。
白い瞼が、ゆっくりと上がっていった。
間近で、サエキを見る。
――本当に泣いているような、無表情だった。
「……なに言ってんの」
「ほんとだよ」
「嘘言ってんじゃないよ」
「嘘じゃないよ。……ねぇ、よ」
夜、と呼ぼうとしたはずなのに、声が外に漏れることはなかった。
鼻がぶつかる。
街灯の灯りが影を作って、目の前の人がどんな顔をしているのかはほとんど見えない。
伏せた目だけが、近すぎてぼやける視界に印象を残した。
行き場をなくした声は、不自然に奪われた呼吸の中に、かき消えていく。
「もう、いいから、呼ばないで」
サエキの聞きたかったカナタの声は、今は掠れた囁きしか残っていなかった。