人生の楽しい終わらせ方
「きれいな水葬の仕方、ひとつ思いついた」
カナタの言葉に、サエキは興味を引かれたようだった。
全身を氷漬けにして、北の、クリオネが泳ぐような、冷たい海に沈めてほしい。
そんな彼女の理想の最期は、まるで夢のような話だった。
自分が死んだあとにそうしてほしいというのならまだしも、人知れずに生きたまま氷漬けにして、水葬してほしいと言うのだ。
そんな話に付き合ってくれる怖いもの知らずの物好きが仮にいたとしても、実現するのはまず不可能だった。
そもそも彼女の死に方探しは、そんな妥協からはじまっていたのだ。
理想が叶わないなら、せめてでき得る中で最高の死に方をしたかった。
そんな折にこんなことを言われれば、気になるのも当然だ。
目を丸くしたサエキに、カナタは続けた。
「どっか、山の中に入っていって、川の上流の方に行くの。それで薬飲むか、腕切るかして、半身水に浸かる。低体温か出血多量か、じわじわ眠るように死ねるよ。最期まで秋空を眺めながら逝けるなんて、なんかちょっと良くない?」
「山の中? 骨になっちゃわない?」
「遺書をボトルに詰めて、川に流せばいいよ。下流でそれが見つかれば探してもらえる。今なら水温も低いからすぐは傷まないだろうし、汚いものは全部水に流れちゃうし、血も残らず抜けて、真っ白になって綺麗」
「ふうん……」
それがカナタの思い付いた、最低限の妥協に抑えた、彼女の人生の終わらせ方だった。
秋晴れの青空の下、ごうごうと流れる川に体半分浸かって、眠るように目を閉じているサエキの姿。
今年最後の緑に囲まれた、真っ白な服の、真っ白な死体。
水に濡れた青と茶の髪が、顔に張り付く。
死に化粧のおかげで、唇だけがいやに色づいていて。
きっととても綺麗だ。
神秘的で幻想的で耽美的な、美しい自殺現場。
カナタにとっても、それは理想の死に姿と言ってよかった。