人生の楽しい終わらせ方
前を歩いていたサエキが、カナタを振り返る。
海色混じりの髪が、森の中では、少し浮いて見えた。
ずっと高いところにある秋の空よりも、ずいぶん青が深い。
あなたの方がずっと海に似てるよ、と、カナタは思った。
「どうしたの、サエキさん」
「ほら、川見えるよ」
「あ……ほんとだ」
足の下で、ぱき、と鳴る。
乾いた小枝が折れる音や、砂利が擦れ合っている音。
そんなものをかき消すような、ごうごうという水音は、もうすぐそこから聞こえていた。
川の音が近いというサエキの言葉に、遊歩道を外れて林の中に入ったのは、三十分ほど前のことだ。
獣道と呼ぶにも微妙な、人がやっと通れるほどの木の間を、体を横にしてすり抜けた。
苔むした地面を、滑ったり躓いたりしながらなんとか歩いているうちに、やがて口を開くことも忘れていた。
なんとなく、できるだけ人の入った様子のない場所のほうが、向いている気がしたのだ。
直線にすればそれほどの距離でもないのだろうが、なにしろ足元が悪いので、ずいぶん長い間歩いていたような気がする。
サエキが振り向いてカナタを呼んだのは、そんな時だった。