人生の楽しい終わらせ方

そう言うと、サエキは眉をしかめて屈み込む。
やはり彼女が躊躇していた理由は、この高さだったらしい。


「な、生意気だな……」
「手貸してあげないよ?」
「ちょっとー」
「さっきその辺りにでかいクモいたけど」
「えっ、え、うそ、やだ」


慌てた声と一緒に、サエキの手が伸びてくる。
握った手は、カナタより一回りも小さかった。
肩に乗せた手に体重が移って、サエキの足が岩を蹴ったと同時に、カナタは一歩後ろへ下がった。
勢いを殺し切れなかったサエキが、飛び込んでくる。
サエキの頬が、肩にぶつかった。


「だいじょーぶ?」
「あ、足が」
「そんな靴履いてくるから」
「だってこれしかスニーカーなかったんだもん」


細い肩に手をかけて、体を離す。
なにか言いたげな、サエキの上目遣い。
彼女の口が開かれる前に、握ったままだった手に気付いて、離しながら前方へ体を向けた。
近づいた川を見て一瞬だけ、なにやってんだろ俺、と考える。
だがもうそこに見える目的地が、すぐにそんなことはどうでもよくさせた。
なんのための目的地なのか、ちゃんと忘れていない。
わかっている。
足の裏の痛みに情けなく顔を歪める彼女の、すてきな死に場所を探すことが、自分たちの最終目的なのだ。

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