人生の楽しい終わらせ方

 14


「けっこう、ごつごつしてる、ね」
「え? なに、聞こえない」


川原の砂利は思いのほかごろごろと粗くて、大きなものはサエキの顔ほどもあった。
水の流れに削られて表面が滑らかになっているため、少しでも濡れていると、滑って踏み外しそうで怖い。
変なバランスを取りながら歩いているせいで、腰と膝がすぐに痛くなる。
その上水音のせいでサエキの声もよく聞こえなくて、大声を上げたら、直後に短い悲鳴が聞こえた。
振り返ると、サエキがぺたりと座り込んでいる。
カナタの顔を見て、眉尻を下げた。


「カナタぁ」
「どうしたの」
「滑ったー」
「サエキさん……案外トロいね」
「だってトンボが」


さっきもクモと聞いて慌てていたし、藪の中に入ってから、ずっと周りを見て戦々恐々としている。
虫が嫌いなのだろう、とは思っていたが、たかがトンボを怖がって足を滑らせるとは。

そう思ったのが顔に出ていたのか、サエキはハの字になっていた眉をしかめた。
無言で手を伸ばすので、それを捕まえて、引っ張り上げる。
その時、サエキが小さく声を上げた。


「あ、いたっ、」


転んだ時に、欠けたり割れたりした石の鋭い角で切ってしまったのだろう。
立ち上がったサエキの足に、つうと細く血の筋がついた。
見ると、右膝の内側よりに、大きくはないがそれなりに深さのある切傷ができている。

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