人生の楽しい終わらせ方
「うあ!? しゃっこい」
サエキが高い声を上げて、膝を震わせた。
慌てたように右足を浮かせる。
なにかの拍子で跳ねた川の水が、素足にかかったらしい。
カナタが首を傾げると、サエキも同じような仕草をした。
「しゃっこいってなに?」
「え? あぁ……、すっごい冷たいってこと、かな?」
「館町弁?」
「わかんない、北海道弁?」
ふうん、と鼻を鳴らして、手にしたペットボトルをまた持ち上げた。
「ちゃんと洗わなきゃだから我慢してね」
「う、うん」
ちらりと目が合ったサエキは、肩を竦めて、不安そうな顔でカナタを見ている。
だがその表情に、なんとなく違和感を覚えた。
色白の脚を汚す傷と血液の上に、ペットボトルを傾ける。
透明な水は、きっと川の水に比べたらずいぶん温かいだろう。
だが人の体には冷たすぎることには変わりなく、サエキは寒そうに身を縮めた。
秋の山に入るのに、素足にショートパンツなんて、ちょっと考えなしすぎたんじゃないだろうか。
膝から内腿へ跳ねた水が、腿の奥へ伝っていきそうになったのを、サエキの指がさりげなく拭う。
傷口を汚していた砂や血はもうだいぶ流れ落ちたが、水をかけるのをやめると、新しい血液がまた溢れ出てきて、水の跡を辿った。
思っていたよりもずいぶん出血が多いようだ。
これでは絆創膏は貼れないから、出血が止まるのをしばらく待っているしかないだろう。