人生の楽しい終わらせ方


「ふふ。優しいね」
「あなたが言ったんでしょ。で、どれ」
「これとこれと、これー」
「……増えてない?」


よく似た三足のサンダルの中から一足を選ぶのに、カナタが遅刻した倍の時間がかかった。
なんでこんなに迷うんだ、と思ったが、考えてみれば、どれもよく似ているからこそ、ちょっとした違いに迷うのかもしれない。

会計を済ませているサエキを、少し離れて待つ。
若い女性ばかりの店内で、ジーンズにパーカーという出で立ちの自分の姿は、浮いている気がしてならなかった。

サエキは、レジの店員とにこやかに言葉を交わしている。
それを眺めながら、文面のイメージと実際に会って話した印象とは、それほど変わらないものなんだな、と考えていた。



カナタとサエキの出会いは、インターネットの掲示板の中でのことだった。
同じ趣味趣向、もしくは手段や目的を持つ者同士が、無差別に主張し合い、言葉を交わし、交流を持つ。

その中でもカナタが出入りしていたのは、いわゆる“アングラ系”と呼ばれる、表立っては活動できない類いのそれだ。

死、負、傷、悪意、病、殺意、痛み、狂気。
闇の中の闇が凝縮されて渦巻いているような、そんな場所だ。

完全犯罪の方法、ドラッグの入手経路、爆弾の作り方。
そんな物騒な単語が溢れ返る中で、妙なタイトルのスレッドを立ち上げたのが、サエキだった。

『楽しい死に方を考えるスレ』。
興味本意や面白半分、自分の知識をひけらかしたい者などを釣り上げるには十分な、シンプルさと奇異さを併せ持っていた。
カナタも例外ではなく釣られたうちの一人だったが、サエキの書き込みは、笑えるほど本気で、そして、馬鹿げていた。

死に顔はできるだけ安らかでいたい。
できるだけ綺麗に、静かに、人に迷惑はかけずに。
けれど他にない、話題性のある、インパクトのある死に方がいい。

臭いのは駄目。
汚いのは論外。
原型は止めていたい。

人知れずいつの間にか消えるなんていうのも嫌だ。
どんなに準備が大変でも、痛くても、苦しくてもいい。
ただ綺麗に静かに目立って死にたい。

それが、サエキの願いだったのだ。
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