人生の楽しい終わらせ方
「カナ、」
顎に鼻を掠めて、首許でちらりと舌を出す。
雨はどんどん量と速さを増しているようだった。
川の流れる音に、別の水音が混じりはじめる。
いつもならば肩や腕が濡れるのを煩わしく思うが、今はそんなこと、どうだってよかった。
サエキの髪を伝って、水滴が首筋に転がり落ちる。
その痕を辿って、項に鼻先を埋めた。
滑らかな首に歯を立てる。
背中や肩を這う両手を、サエキが掴んだり、押し返したりしているのがわかった。
抵抗のつもりなのだろうが、まるで力が入っていない。
耳の上あたりで、浅い息遣いが聞こえた。
吐息だけで、カナタの名前を呼ぶ。
小さく鼻を啜って、「や」と声を上げる。
じっとりと湿った感覚が手のひらにまとわりつくことで、雨足の加速を感じた。
首に噛みつきながら、背中に手を回す。
頭の後ろのほうでは、ざあざあという音が、川と雨どちらなのかわからないほどになっていた。
白い首筋を、なんだっていい、真っ赤に染めたくなる。
吸い付こうか、噛み切ろうか、一瞬迷った。
その時だった。
サエキが、悲鳴を上げたのは。