先天性マイノリティ
Minority-1.独白


──(SIDE、Zerozy)




ひとりきりの部屋、切り放した原稿用紙が温まったインスタントのカフェラテを恋しがる白夜。

窓の外から、チッチクと啼くなにかがもの珍しそうに室内を覗いている。

網戸の目から思い出がゆるりと入り込むと、郷愁にも似た迷子のような感情が沸き騰がる。



…俺は、駄目なやつだ。

直ぐに萎れるろくでなしだ。

消えてしまいたい。

でも死ぬだけの勇気もない。

だけどもう生きたくない。

それでも、死にたくない。



薄暗い螺旋階段のような無限ループ。

疼き出した無数のパラドックスの幼虫が皮膚を喰い破ろうとしている。

俺の中に潜むマイノリティという名の異質。

周囲からの引け目、劣等感、罪の意識、自らの異常。

抱えるには重過ぎてびくともせず、その場に置いて離れることも出来ない。

褪めた溶岩のようなそいつは、柔らかな雲で太陽の鼻先を擽るときのように繊細なテレパシー能力に長けている。

厄介で壮大なコンプレックスは、語りかける。



──君は人間という生命に産まれ落ちて満足ですか。

愛の判断はあたまでしますか、こころでしますか。

少数派は不幸だと思いますか。

──"彼(自分)"のことがきらいですか?




俺は眼を閉じて、思いの外に安らかな返答をする。

きらいじゃない、と一言だけ。


二度と戻れない景色。

さよなら、と記憶が泣く。


黒色の油性ペンで先天性と印された残骸を食べる。

忘れたくないものほど早くに忘れてしまう。


生きるということは、辛い。


所詮は自身を形成する以上の役割も目的も持てない、低俗な個体なのだ。


…人間で在り続けるということは、辛い。



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