先天性マイノリティ
火葬場から見上げる空は携帯電話のカメラ越しに映る静止画のように現実味が薄い。
棺の内側におさまる瞼は生を灯さず、慎ましやかに組まれた指先が動くことはない。
享年ニ十七。
最愛の人は業火に焼かれている。
息を詰め、理性と狂気の渓間で歯を食い縛りぎりぎりの正気を保つ。
どうして…こんな早くに。
揚羽柄のハンカチで眼元をおさえる喪服姿の女性の呟きが足下に落ちると同時、視界が砂嵐に包まれ写真のネガのように不吉な色彩へと変貌を遂げる。
絵の具をぶち撒けたようなグロテスク・マーブル。
ずるずると尾をひいた死が幻影となり、爪先から這い上る蛇のようにねっとりと絡みついてくる。
沈黙を吟う白銀の残骸は、畏れるほどに美しい。
拾った骨の無機質さは、命を手離した孤高の芸術だ。
それでも、焼き釜に入れる前に皮を矧いで剥製にしておけば良かった。
死に顔を携帯のカメラにおさめておくべきだった。
死体が腐りきるまで二人きりで過ごしたかった。
猟奇的な後悔が喉奥を抉るように凄まじい勢いで突き上げてくる。
肢体を四角い箱に納め、墓石の底に沈める悪魔のような儀式。
黒い布を被った亡霊たちが群がり次々と躍り狂い、消える。
どうしてだ。俺は、なにも出来なかった。
…お前は、どうして死んだ?
意味を成す寸前の思考の羅列は、分解したパズルのピースのように俺を極限まで追い詰める。
脳まで到達した赤黒い蛇が嘲笑うようにとぐろを巻く。
果てしない螺旋の渦に気が遠くなる。
分離したミルクのように決して混じり合わない絶望と還らない時間。
歪み、交差し、車のヘッドライトのように強烈な点滅を繰り返す。