先天性マイノリティ
メイとコウは、こういうところが似ている。
優柔不断で決断力が乏しい俺に対して、二人の答えはいつだって明確だ。
自分が情けなくなる。
コウがいなくなった今も、メイは強い。
俺が朽ちていた一ヶ月の間、彼女はコウの死を正面から受け止め迫り来る後退、衰退の誘惑を厳然と振り切った。
…それなのに、俺は同じ場所から一歩も動けずにいる。
葬儀の日から全身にまとわりつく姿の見えない蛇に、咬みつかれるのが恐ろしいから。
辛い。死にそうだ。
泣き言をいって逃げたくなる。
でも、何処にも逃げられる場所なんてない。
頭ではわかっていても感情がついて来ない。
見透した鋭さで、メイは本心を放つ。
「──世の中辛いのはあんただけじゃない、勿論私だけでもない。そう考えたって毎日辛いよ。呼吸するのも嫌になる。だけど、それでも生きていかなきゃいけない。拷問だよ」
人間ひとりがいなくなったって、世界にはなんの支障もない。
それが堪らなく哀しいんだ。
俺も、メイも。
コウがいなくなった世界を生きることが、こんなにも辛い。
だけど、と前置きをして、メイは続ける。
「ゼロジとコウがいたから私は今まで生きて来られた。だから私はコウに誓って、あんたを不幸にさせる訳にはいかない」
メイが鎌を振り上げ、半透明な足下の蛇を真っ二つに切り裂く幻影。
飛び散った体液は濁った水溜まりになり、やがて消滅した。
全ては、穢れた脳内イメージでしかなかった。
…俺は自分勝手だ。
世界一自己中心的で最低な人間だ。
いつもメイは俺とは違う世界を持っていて、近くにいるようで一定の距離があるような気がしていた。
コウも、そうだ。
「あんたは幸せになるべきだよ、ゼロジ」
──『お前は幸せになるべきだ』
ああ、同じ台詞を彼の口からも聴いたことがある。
何故俺のような平坦で取り柄のない人間に対して、こいつらは思いきり優しいのだろう。
…なんで、俺なんかに!
開放を訴える躰の奥底から吐き出されようと藻掻く痴情が内部爆発を起こして、膨大な涙となって流れ出す。