先天性マイノリティ
どうしようもなく悲しいとき、サンテグジュぺリ著の「星の王子さま」を開く。
小さい頃から一番大好きな本。
私にとっての薔薇の花は、ゼロジとコウだ。
友情と尊敬と感謝が混じり合った心情は今も健在で、コウが死んでから以前よりも強固になった。
──本当に大切なものは目には見えない。
そして、油断していると奪われてしまうことだってある──。
…命を絶ったコウに、哀しむゼロジに。最愛の二人に、私はなにが出来るだろう?
私は愛されない子供だった。
「お前に価値なんてないんだよ」
義母から私へ、一日たりとも絶えず贈られ続けた罵りのギフト。
数々の言葉はアイスピックの先端のように鋭く尖っていて防御の術がなく、貫かれた無数の穴は塞がらないまま膿を垂れ流した。
膨れあがった傷口は変色していく。
痛みを麻痺してしまうほどの哀しみ。
罵倒されながら、小さい私は幼稚園の戸棚にある素敵な絵本「星の王子さま」の世界に意識をとばす。
カラフルでかわいいメルヘンワールドにいれば、私は傷つかない。
唯一の逃避法だった。
次第に、受けた傷が浅いのか深いのかもわからなくなって来る。
そして、私は言葉を放棄した。
貶すことでしか生きられない義母と、生きるために一時的に失語症になった私。
義母と私と、どちらが正しい人間なのだろう?
…もしかしたらどちらとも人間ではなく、別の生命体なのかもしれないと思った。
言葉を封じ込めて考えて考えて、私は五歳にして世界の仕組みの全てがわかったような気がしてしまった。
広い宇宙が恋しくなった。
私が高校に上がる前に、義母はよくわからない奇病で死んだ。
人は死期が近くなると優しくなるというのは迷信だと思った。
一度だけ病室へ足を運んだとき、彼女にこう言われた。