先天性マイノリティ
「この悪魔。呪いをかけて殺す気だろう、私が死ぬのはお前のせいだ、ちくしょう」
恐ろしい形相だった。
ぎらぎらと脂ぎった眼、土気色の肌で唸り声をあげ罵倒する姿はもうヒトには見えなかった。
私は今まで、どんな仕打ちを受けても義母のことを家族だと思っていた。
でも彼女は長い年月の間、心の奥底から私を憎み嫌悪していたのだ。
自覚をした途端に両腕が宙吊りのマリオネットのようにがたがたと痙攣し、見舞いの花束を廊下に放って病室を去った。
──病院の近くにある公園のアスレチックの麓にうずくまり声を殺して泣いた。
太陽が沈み、月が昇るまでずっと泣き続けた。
それが、義母に対しての最後の涙だった。
私はその日、義母の存在を肯定的に視ることを徹底的に諦め、根絶した。
白くも黒くもない、不思議な気持ちだった。
その数日後に息を引き取った彼女はお世辞にも安らかとはいえない死に顔だった。
父も、本当にこの女を愛していたのだろうかと疑うほどに義母の死に対して淡白だった。
父の大切なものは妻でも娘でもなく…自分自身だけなのだ。