先天性マイノリティ
私が生まれたのと同時に母は亡くなったという。
それが理由なのかは知らないが、父は昔から明らかにおかしかった。
ひたすらに鏡を見つめ続けたり、自分は偉い、凄いと呪文のような独り言を繰り返したり、揚げ句の果てには急なヒステリーを頻発に起こすようになり日常生活が困難になった。
義母の死後、父は親戚の勧めでとうとう精神科に通院しはじめ、他人を愛することが出来ない自己愛性人格障害だと診断された。
自分だけを愛するナルキッソスのように、永劫に自らの美の中に溺れる道を選ぶのだろう。
彼は一見博学で立派な人物だが、徐々に彼の精神的ナルシシズムの異常さが顕になり誰もが離れていく。
義母の死から僅か三ヶ月後、父は十二歳年下の女と再婚をした。
呆れた私は実家を出て独り暮らしをはじめる。
彼にとっての私の存在は、良い父親役を演じるための駒のひとつに過ぎないと知っていたから。
義母のように憎しみに支配される者、父のように自分しか愛せない者、私のように劣等感を背負った欠落者。
…本当に正常な人間なんて、この地球上にはいないのかもしれないと思った。
この世で一番怖いものはホラー漫画に出て来る口裂け女でもノッペラボウでもない、ヒトノキモチだ。
どんなときも感情を殺して周囲から距離を置き、高校でも謎のキャラクターで通した。
精神科でテストをしたら私も百パーセントなんらかの異常が出るだろう、と思いながら過ごす毎日。
つまらなかった、虚しかった、哀しかった。
そんなとき、偶々壊れていた鍵を見つけて飛び出した屋上には、強烈な存在感を放つ二人がいた。
ゼロジとコウに出逢ってからが私の本当の人生だと思っている。