先天性マイノリティ
──『ゼロジを諦めきれないだけの癖に聖域扱いをして、醜い女。いつか自滅するよ、綺麗なだけの愛情なんてちっぽけな理想。あんたが騙る無償愛なんて、人間からも、あんた自身からも最も遠いものだ』
私と同じ顔で紡がれる暴言。
本心だと彼女は主張する。
違う、と否定をすると、厭な笑みを口元に浮かべて「ゼロジとセックスをする夢を見た回数は?」と尋ねて来る。
かっとなって、近くにあった花瓶で目の前の鏡を割ると、彼女は消えた。
割れた鏡の破片から『父親に似たくなくて必死なあんたは、痛い』と声がする。
──そこで目が覚めた。
…悪夢だ。
時計を見ると夕方の五時。
今日は仕事が休みで昼過ぎから眠っていたのだ。
シャワーを浴びながら夢の内容を思い出す。
──『ゼロジとセックスをする夢を見た回数は?』
酷く惨めな気分になる。
自己の深層心理に攻撃を受けるなんて、滑稽の極みだ。
精神的な補いが不足している結果か。
頭から冷水を浴び、シャンプーの泡を洗い流す。
バスタオルを巻き、冷えた躰でリビングの床の温度と同化する。
髪を伝う罪悪に、抗えない宿業にも似た性。
人間であることが、女であることが、こんなにも悲劇に、汚らわしく思える。