先天性マイノリティ
俺の恋人だった人の名は、コウという。
輪廻転生というものがあると仮定をして、生まれ変わったコウが喩え犬でも蟻でも観葉植物でも、道端に転がる石だろうと俺は必ず見つけ出し愛するだろう。
死んだ婆ちゃんが言っていたことが今ならわかる。
「爺さんが死んでから、私の世界はとてもつまらなくなったような気がするねえ。でもそれ以上に楽しかったことを思い出すと嬉しくて、次はいつ逢えるんだろうって期待してしまうよ。お前にもいつかそういう人が出来たら私に一番に紹介しておくれ。誰が反対しても、私はいつだってお前の味方だ。」
皺のある温かい掌で頭を撫でてもらったのは、今からもう十五年以上も前のこと。
婆ちゃんは希望通りに今、大好きな爺ちゃんと過ごした田舎町で共に寄り添い眠っている。
死ぬ直前、呆けはじめた爺ちゃんの手を握りながら、仕方ない人だねえ、子供にかえったみたいだ、と微笑みながら言った婆ちゃんの穏やかな顔が忘れられない。
彼女の一生はとても幸せだっただろう。
特別な華やかさも、栄光も名誉もなかった人生。
それでも、心から愛する人と生き抜いた充足で溢れていた。
俺も、婆ちゃんのようになりたかった。
…今はただ情けなく、感情の遣り場が見つからない。