先天性マイノリティ
…そういえば、ナツメさんはどうして葬儀に来なかったのだろう?
高校時代からの長い付き合いなら、来るのが道理だ。
なにかが引っかかるような気がして喉奥がむず痒くなる。
ぼんやりとしながら窓ガラス越しにネオンの灯る街並みを見つめていると、乗っているタクシーが急ブレーキをかけた。
周りの車は一斉にクラクションを鳴らし、あっという間に渋滞になる。
外が騒がしい。
交差点に人だかりが出来ている。
なにかあったのかと、好奇心から眼を凝らし現場を見た。
横断歩道の上に若い男が倒れている。
対角線の先には、なにかを叫ぶ同年代くらいの男の姿。
酔っ払いの喧嘩だろうか、と軽い気持ちで考えていた刹那、倒れていた人物が顔を上げる。
「…ゼロジ!?」
私があいつを見間違えるはずがない。
その一点にだけは自信がある。
思考よりも速く躰が動いた。
お釣りはいらないと財布から出した五千円札を置いて、後部座席から飛び出す。
人だかりを掻き分け駆け寄ると、倒れていたのはやっぱりゼロジだった。
顔を見ると、口元には血が滲んでいる。
意識はしっかりしているようだが、殴られたショックで動けないようだ。
…──誰が私の大切なゼロジを。
完全に頭に血が昇った私は、少し離れた場所に立っている人物を見る。
──ナツメユウタ。
つい先刻までシュウちゃんとの話の中に存在していた男だった。
互いに驚愕して見つめ合う。
高校時代以来の対面だが、意外にも相手も覚えていたようだ。
先に口を開いたのは私だった。