先天性マイノリティ
Minority-3.零
(SIDE、Zerozy)
ナツメユウタから着信があったのは、夜の九時過ぎだった。
彼の名前を訊いても高校時代のコウのクラスメイトという印象しかなく、思い出すのに数秒を要した。
今から出て来れるか、という短い問い。
俺とは面識が限りなく薄いはずだ。だから断った。
…何故俺がナツメユウタと話をしなければならないのか、理由が見当たらない。
「俺、サクラレイジですけど…人違いじゃないですよね」
そう言った瞬間、返された台詞に固まった。
『コウのことで話がある。お前とコウの関係も知ってる』
頭が真っ白になり窒息しそうになる。
自宅を出る気にも話をする気にもならない。
脅迫めいた言葉に追い詰められ、押し黙る。
見えない圧力、壁際で身動きの取れないような状況。
…弱気で押しに弱い俺は遂に「行きます」と告げてしまった。
通話を切った後、長い溜め息を吐く。
なんだっていうんだ。
コウのことを考えては堕ち、這い上がり、昇り詰め、地獄寸前まで墜落する。
ばらけ折れた躰を拾い集めてまた偽りの中を生きる。
剥き出しの腕の断面を見ると、配線だらけ。
ああ、俺は人間だと思っていたが違ったのか、と納得する──。
脳内ではそんな脚本が出来上がっている。
潔く死ぬ勇気も胸を張って生きる勇気も、俺にはない。
不吉な予感がして窓辺を見ると、写真立てが倒れていた。
高校時代のコウの卒業の日の写真。
笑顔のコウと、仏頂面の俺と、泣き腫らした顔のメイ。
遠い昔のフラクタル。
俺はとっくに絶望しきっている。
…自分の心に殺されそうだ。
財布と鍵をポケットに詰めて家を出る。
指定された待ち合わせ場所は、ここから一駅先のドーナツショップ前。
溜め息は幸せを逃す。
そう言ったのは、誰だったか。