先天性マイノリティ
「コップは夢を見ると思う?」
いつかの過去に投げかけられた難問。
コウの感覚はいつも変だった。
ファーストフード店でフィッシュバーガーをかじるとき、その味が美味いか不味いかよりも、中身の磨り潰された魚はどういう気持ちで店員にタルタルソースをかけられたのか、そっちのほうが気になるのだと言い放つ。
謎めいた特殊思考回路の持ち主。
コップの疑問も同様だ。
目の前のメロンソーダが注がれた容器に意思があるのか否か、なんて。
「コップの気持ちなんて考えたことがないから、わからない」
毒々しいほどに着色された緑を見つめ、首を捻って答える。コウは、嬉しそうだ。
「ゼロジらしい。そういうとこ、ボケてていいよな」
「大抵の人が同じことを言うと思うけど」
「答えなんかなんでもいい、ゼロジの考えが知りたいんだよ。お前を観察するのが俺の趣味だから」
俺は困り果てる。
裏腹に、楽しそうに目を輝かせるコウの様子は目当てのおもちゃを見つけたときの園児のようでもある。
大人なんだか子供なんだか、極端過ぎる。
…俺たちはいつも「なんとなく」を大切にしていた。
シェイクの中のバニラビーンズの粒子のように極小の「なんとなく」は、決して誰にでも見つけられるものではないことを知っている。
それがどれだけ数奇で、稀少価値が高いのかということも。