先天性マイノリティ
「ごめんなさい、私が連れ出したせいで、シュウちゃんまで」
見事なほど左右対称の、キサラギさんの右腕と、俺の左腕の切り傷。
…大丈夫、気にしないでよ。
お揃いのタトゥーだと思っておくから。
──そんな戯けた言葉すら、出て来ない。
…俺のほうこそ、守れなくてごめん。
紡ごうとしているのに、一向に声は出ない。
正直俺は、サクラくんが恐ろしかった。
狂気に支配された彼を見た瞬間、フローリングに縫いつけられたように両脚が竦み、身動きひとつ取れなかった。
正面から向かって行った彼女のほうが余程男らしい。
虐められていたときのように、また俺はキサラギさんに助けられた。
なんて無様なことだろう。
…あれから時間が経ったのに、俺には好きな女の子を庇える力もないのか。
情けなさに唇を噛み締める。
『ゼロジを、守ってくれ』
デジャウ゛のような邂逅。
──ごめんなさい、ウエダさん。
俺は約束を守れませんでした。
…あれは、夢なんかではなかったんでしょう?
言葉というものは、口に出さないと伝わらない。
あとどれくらい文明が発達すれば、黙っていてもテレパシーをつかえる宇宙人類になれるのだろうか?
ベッドに躰を横たえたまま、無力さを垂れ流して泣く。
こうやって泣くのも生きているからこそ出来るのだと、思考を美化させることすらも酷く不格好に思える。
現実は、剰りにも惨(むご)い。
仰向けのまま見上げる非望。
喉を伝う厭な苦さは、おろしたての水彩絵の具のように受け容れ難い味だ、と思った。