先天性マイノリティ
「……ねえ、シュウちゃん。私、これから先にどんなことがあっても負けたくないって思う」
キサラギさんの瞳から溢れる涙と、静かに紡がれる声。
純白に横たわる彼女の横顔はきれいで、つよくて、いとおしい。
眼を閉じて浮かんだのは、夜空に輝く三つの影。
──時間よ、戻れ。
幾ら唱えてみたところで、なにひとつ起こるわけもない。
俺の職業が魔法使いではないことが、心から恨めしい。
時間よ、戻ってくれ。
…なあ、ウエダさん、
お願いだから、生き返ってよ。
キサラギさんに笑顔を戻して、サクラくんはあなたの手で守ってください。
枝分かれした影は分裂して、宙へと吸い込まれていく。
その姿を視ていられなくなって、僅かに震える瞼を上げた。
見えたのは、滲んだ白だけだった。
──シュウヤ。
「終夜」。
名は体を著すというのは、只の諺に過ぎないのか。
この名の通り、夜を終わらせられる人になりたい。
きつく眼を綴じて想う。
『大切な彼女を守れる力を、どうか俺にください』──。