先天性マイノリティ
現実は温いフィクションじゃない。
生々しい日々が積み重なった上に存在する倫理的なものだ。
人生は娯楽映画でも浪慢小説でもない。
誰もが、生まれた瞬間から起承転結も儘ならないループの中に放り出される。
ぐるぐる廻って、交差して、平らになって、切断、接続の繰り返し。
死ぬまで、…否、死んでも?
数式のように正確な解答を弾き出すことばかりが重要だとは思わない。
だけど、奇跡と云われる事象が起きる確率というものは、何故こんなにも少ないのだろう。
人間という生き物は、なにもかもが中途半端だ。
針で潰せば体液の飛び散る芋虫宛らにデリケートなくせに独裁者に成りたいと謳い、暴君になり、それでいてひとりは嫌だとごねる。
正三角形の一点が崩れたものは、四角にも円にもなれない。
立方体にも球体にも生らず、視点切り替えも不可能。
何度もアングルを変えようと試みたけれど、駄目だった。
お願いだからと別次元へ乞うことにも哭き疲れ、コウが死にゼロジは壊れ、私は私ではなくなる。
悪魔や宇宙人の謀略だと、誇大妄想のジョークにすらならない。
「…どうして、死んだの。ねえ、どうして」
同じ問いを何度繰り返してみても、響くのは私の声だけ。
今じゃ、コウの気に入っていた市松模様のジッポも、好きだった音楽も、みんな死んでる。
…いっそのこと、私がゼロジに出逢わなければ死ななかった?
弱いとか強いとか以前に、あんたは贅沢だよ。
ゼロジの気持ちを知った上で自分だけ死んで、一人占めして、逃げた。
現状は、無理心中みたいなものだ。
ゼロジの心はとっくに死んでる。
どんなに美化したって庇ってみたって、死を悲しみから切り離すことは難しい。
…胸の痛みと後悔は、いつでも進行形で襲って来るものなんだよ。
部屋の写真立てに棲むコウに怒りをぶつけてみても、どんなに強く過去に戻りたいと願ったって、総てが無駄。
生きるということは、非常に無駄な消費の連続だ。
死んで早々に孵るという選択も、寿命尽きるまで在ろうと藻掻く形態も、結局は格好が悪い。
この世に生を承けたときから誰もが、恥晒しだ。