先天性マイノリティ
彼がいてくれなかったら、私もくるっていただろう。
私はアパレルの仕事を辞め、ゼロジの入院している病院の近くの工場に転職をした。
アパートは狭いけれど、二人で棲むには充分。
彼も百貨店を辞め、日払いの交通整備のアルバイトに変えた。
ゼロジの入院費の支払いを、手伝ってくれている。
「本当にシュウちゃんは無理しないで。私なんかといていいの、大事な人生損するよ?」
「そんなこと言わないで。俺が好きでいるんだから、側に置いてよ」
ゼロジから腕を切りつけられたあの日、病院のベッドの上で、好きだと告げられた。
これから一緒に棲まないか、と。
そして、彼の過去についても訊いた。
同性の恋人がいたこと、女性に対しての性的欲求が乏しいこと、コウとゼロジの関係性に気づいていたこと…色々な事実を知った。
シュウちゃんは本当に優しい人だ。
生まれたままの、裸の私を愛してくれる人。
恋愛云々を飛び越えた次元で、私は精一杯応えたいと思った。
玄関のチャイムが鳴る。
届いた数個分の大きな段ボールの中には、缶詰やお米、たくさんの食料。差出人は、ナツメさん。
『俺は多分、コウが好きだった。だから、サクラとキサラギが羨ましくて、あんなこと…。ごめん、許してくれ』
私とシュウちゃんが入院をした日、病院へ駆けつけて来た彼から土下座で謝罪をされた。
…それからはお節介なくらい、こうして生活面を支えてくれている(時折部屋にも来て、掃除までしてくれることも)。
人生は、本当にどう転ぶかわからない。
良くも悪くも毎日を生きているのだから。
九十九パーセントが絶望に覆われていても、一パーセントの希望で人は生きていける。
二人並んで冷蔵庫に缶詰類を分け入れながら、顔を見合わせて笑う。