先天性マイノリティ
満杯まで湯を張った浴槽に腕を沈める。
とても安らかな気持ちだ。
窓の外から聴こえる鳥の囀り、脳裏を掠めるRe:tireの曲、心地好い走馬灯は、思いの外に短い。
鈍く光る剃刀を、力委せに深く深く手首の静脈に刻む。
死を迎える爲(ため)のカウントダウン。
俺が根底から望むのは解放なのだと、昇華。
感覚が、優しく痛烈に麻痺していく。
鮮血に染まった浴室のタイルがうねるように歪む。
──数時間後、孤独に死期硬直をはじめる躰は、きっと酷く惨めなのだろう。
死ぬこと。
これが、俺の生きた証。
…弱い選択だなんて、知ってるよ。
赦して欲しいとも思わない。
──さよならを告げる資格すら無いことも、わかってる。