青空を君に透かさないで
don't let you blue
歩行者信号は赤だった。中学校から下校中、友人と喋りながら靴紐に何気なく意識を落としていた青年──斎古はふと顔を上げた。
暑さに空気が歪んでいる。まるでそこだけが油絵であるかのような疎外感。白と黒が混ざって揺れる。その先の、横断歩道の向こう側に、蜃気楼が在った。否、今にも消えそうだったから勘違いしてしまったのだろう。
青白い肌に、落ち窪んだ目元。学校指定の地味なベルト、夏なのに第一ボタンまで閉められたカッターシャツ。真っ黒く塗りつぶされた視線はぼとりと地面にこびり付いている。
風に吹かれたら、かき消されてしまいそうだった。そして、きっと実際にそうだったのだ。風が強く吹き付ける。シャツの裾がはためいて、髪の毛が乱される。青年の影がぐらりと揺らいだ。
倒れるように、進むように、彼は道路の上に立つ。計ったかの如く、トラックが視界の端に映り込む。
タイヤが擦る地面の悲鳴。クラクションの音、彼の澱んだ眼球も、色濃く縫われた陰影も、何もかもが煩かった筈なのに、一切の音を世界は亡くして。
現実を拒んだ“彼”はそっと瞼を閉じた。
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