青空を君に透かさないで
■青空を君に透かさないで
閉じた瞼を押し上げても、見ている光景は変わらない。夏の真昼間、死んだ筈の青年の背中を見ながら、斎古は首を傾げて声を発した。
「何で?」
あのとき、青年が立っていた、調度その場所。ひまわりの花束だけが、過去を忘れさせまいと言わんばかりに足元で必死に横たわっている。生々しい血痕が、目に痛い。
青空と蝉の声がこの光景に不釣り合いだった。白色の雲は長閑に頭上を浮遊している。相も変わらず、気温は高い。
「ラクトアイス、買ってきたんだ」
コンビニのビニル袋を片手に振り返ることなく彼は言った。
「また自分の好きなもの買ったのか」
また、という自身の発言に斎古は僅かな違和感を感じた。彼の名前を思い出そうとして、彼についての何もかもが思い出せないことに気がつく。彼の存在した証が、花束だけになってしまう錯覚。
ペンキを塗りたての、綺麗な色をしたガードレール。つるりとした表面が太陽の光を反射して、眩しさに斎古は手を翳した。
指先に触れた雨粒に少年は顔を顰める。三日間、雨続きだ。翳した手を引っ込める。傘を忘れた自分自身を恨んで、舌打ち。雨のせいで視界が狭い。何故、雨音というものは孤独感を感じさせるのだろう。時計の短針は未だ四を指していたのに、こんなにも暗い。