金魚すくい
ほのかに香る煙草の香り。
「あー、折角やめていたのになぁ」
そう言いながら新しい煙草をポケットから取り出し、火をつけた。
ぼやけた視界の中、お義父さんはわたしのすぐそばに屈み、煙を顔目掛けて吐き出した。
「それもこれもお前のせいだよなぁ? 私にストレスばかりかけるお前が」
そう言って煙草の煙をもう一度吸い込み、吐いた。
勉さんの時とは違う匂い。
勉さんは白地に黒で書かれたセブンスター。
お義父さんのは、そこに緑色が入ったマルボロ。
種類が違おうが、吸わない私にとってはどちらも同じものだ。
あんなに大人っぽい、かっこいいと思えた煙草が、今は恐怖の対象でしかない。
涙で滲む瞳に煙がしみて、私はひたすら涙を流す。
「ごっ……ごめんなさっ……」
体中が悲鳴をあげている。
なのに口はこれ以上声をあげようとはしない。
それは恐怖とーー。
「煙草吸ってるなんて知れたら、またママに怒られてしまう、っな」
「あつっ……」
再び私の左手のひらに、火のついた煙草が押し付けられた。
最後にジジッと燃える音を立て、火は消えた。
代わりに私の手の平に黒い痕を残して。