金魚すくい
にっこり笑う勉さんを見つめながら、なんて言葉を返せばいいのかわらなかった。
すると、店へと続く扉が開き、店長が顔を出した。
「こらー、勉! もう勤務時間なってるぞ。早く入れ」
「おっと、もうこんな時間か!」
壁にかかっていた丸い掛け時計を見て、勉さんは慌てて煙草の火を消した。
そのまま店の扉へと向かい、ドアノブを掴んだ瞬間、一度だけ振り向いた。
「……柚子ちゃん、さっきのこと考えといて」
ーー俺と付き合うとか。
私が困ったように顔を赤らめたら、再び勉さんは笑った。
「その反応、ほんと素直だよね。でもそういう選択肢もあるって思ってくれればいいから。今はね……」
そう言って勉さんは店の中に飛び込んだ。
ーーバタン。
部屋には私だけ取り残され、辺りにはセブンスターの香りだけが漂っていた……。