金魚すくい



ーーそんな時だった。



「……柚子?」



びくっ。


肩が大きく揺れた。


泣き出しそうになっていた私の背中に、透き通る旋律が響き渡る。



ほんとに君はーー。


ヒーローみたいに現れるよね。



「やっぱり。柚子どうかしたの?」



そう言って私のすぐそばで同じように屈んで、顔を覗き込んだのは、優だ。


その顔はとても心配そうで。


黒い瞳が微かに揺れている。



私は溢れかけていた涙を必死に隠し、笑顔を作った。



「ちょっと、急にお腹が痛くなっちゃって」



ーーでもね、優。


今だけは、優にも会いたくなかったんだよ。



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