金魚すくい
「じゃあ俺は先に学校へ行くよ」
「うん」
「でもその前に……」
右手を広げて差し出した。
「柚子、ケータイ貸して」
そのセリフには、さすがに首を傾げる。
その様子を見て、再び笑う。
「柚子のケータイに俺のメアド登録する。ついでに俺のには柚子の番号とメアド登録するから」
「う、うん。わかった」
ポケットに入れていたスマホを取り出し、優に渡す。
ロックのかかっていない私のスマホは簡単に優の侵入を許し、文字を入力されてゆく。
数分と経たぬうちに、優は私の連絡先と、私のスマホに優のメアドを追加した。
「じゃあ、何かあったら連絡して。約束」
「……うん」
再び優は笑う。
幼い頃と同じように、やんわりと頬を緩めて。
私はその場にしゃがみ込んだまま、優の大きくなった背中を、ただじっと見送ったーー。