金魚すくい


ーーやめて、優。



「やめてよ……」



震える……。


視界も。


声も。


体も。



重い体を必死に動かそうと、神経を呼び起こす……が、なかなか上手くいかない。


痛みが邪魔をする。


その間も優の拳は止まらない。



ーーお願い、やめて。



尚も拳は振り下ろされる。


血走った優の瞳からは怒りよりも悲しみの色に染まっていた。



ーーやめて。


そんな傷ついた顔しないで。


どうして優が傷つくの?


ねぇ……優……。



「優っ……!」



必死になって絞り出した声は相変わらず掠れていて、決して大きいとは言えない。


体も重くて、ツライ。


それでも片手だけ必死に動かし、優へと伸ばした。


真っ直ぐ。


震えながら。


全身の神経をそこに集中させて。



……そしたら。



殴りつけていた優の手が、ピタリと止まった。




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