金魚すくい



「おはようございます」



見慣れた裏口から室内へと入り、先客に挨拶をする。



「あっ、おはよう」



爽やかな朝に疲れの色が見えるその人物は、あくびを噛み殺しながら返事を返した。


それでもやっぱりイケメンだな。


そう思って、私はつい手を止めて相手が煙草に火をつける姿を見つめていた。


すると。



「なに、また見惚れてくれてるのかな?」



にっこりと口元のほくろが微笑む。



「あっ、つい……ごめんなさい勉さん」



肩を竦め、いそいそと制服のシャツを羽織った。


そんな私を見ながら煙草を吸い、相変わらず素直だねって笑った。



「最近見かけなかったけど、バイトの量減らしたの?」


「あっ、はい」


「へぇー。でも高校卒業したら一人暮らししたいって言ってなかったっけ?」


「そうだったんですけど、その必要がなくなったので……」



言葉を濁す。


すると勉さんは再び煙草吸いながら、そうなんだってそれだけを口にした。


相変わらず空気を察してくれる大人だ。



< 247 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop