金魚すくい
「おはようございます」
見慣れた裏口から室内へと入り、先客に挨拶をする。
「あっ、おはよう」
爽やかな朝に疲れの色が見えるその人物は、あくびを噛み殺しながら返事を返した。
それでもやっぱりイケメンだな。
そう思って、私はつい手を止めて相手が煙草に火をつける姿を見つめていた。
すると。
「なに、また見惚れてくれてるのかな?」
にっこりと口元のほくろが微笑む。
「あっ、つい……ごめんなさい勉さん」
肩を竦め、いそいそと制服のシャツを羽織った。
そんな私を見ながら煙草を吸い、相変わらず素直だねって笑った。
「最近見かけなかったけど、バイトの量減らしたの?」
「あっ、はい」
「へぇー。でも高校卒業したら一人暮らししたいって言ってなかったっけ?」
「そうだったんですけど、その必要がなくなったので……」
言葉を濁す。
すると勉さんは再び煙草吸いながら、そうなんだってそれだけを口にした。
相変わらず空気を察してくれる大人だ。