金魚すくい
暫く沈黙が続く。
その間に幾度となく勉さんの強い視線を感じ、居心地の悪さを感じてしまう。
だけどそれも一瞬だった。
「……そっか。柚子ちゃんは選んだんだね」
優しい声色で、言葉はセブンスターの香りと共に私の元へと届いた。
思わず顔を上げ、向かいに座る勉さんを見やる。
……まだ何も言ってないのに。
だけど勉さんには分かったようだ。
ほんとに、勉さんは妙に察しがいい。
いや察しがいいのか、それとも私が悪すぎるだけなのか。
優と付き合うか、雄馬と元に戻るか。
それともどちらとも付き合わないかーー。
とにかく、私は選んだ。
勉さんの言うように、初めて私が選び取った選択肢。
「ちなみにそれって……どっちの?」
整った顔が寂しそうに笑った。
夜勤明けの疲れた表情が、より一層色濃く見えて。
「……いや、やっぱいいや。聞いたところで俺が選ばれる事はもうなさそうだし」
そう言われてそんな表情を見せられて、初めて勉さんの言っていた事が本当だったんだと気づいた。
正直、あの時言われた事は今の今まで冗談だと思っていた。
『例えば……俺と付き合うとか』
だって勉さんは大人で。
かっこいいし、モテるし。
ーーでも。