金魚すくい


暫く沈黙が続く。


その間に幾度となく勉さんの強い視線を感じ、居心地の悪さを感じてしまう。


だけどそれも一瞬だった。



「……そっか。柚子ちゃんは選んだんだね」



優しい声色で、言葉はセブンスターの香りと共に私の元へと届いた。


思わず顔を上げ、向かいに座る勉さんを見やる。



……まだ何も言ってないのに。



だけど勉さんには分かったようだ。


ほんとに、勉さんは妙に察しがいい。


いや察しがいいのか、それとも私が悪すぎるだけなのか。



優と付き合うか、雄馬と元に戻るか。


それともどちらとも付き合わないかーー。



とにかく、私は選んだ。


勉さんの言うように、初めて私が選び取った選択肢。



「ちなみにそれって……どっちの?」



整った顔が寂しそうに笑った。


夜勤明けの疲れた表情が、より一層色濃く見えて。



「……いや、やっぱいいや。聞いたところで俺が選ばれる事はもうなさそうだし」



そう言われてそんな表情を見せられて、初めて勉さんの言っていた事が本当だったんだと気づいた。


正直、あの時言われた事は今の今まで冗談だと思っていた。



『例えば……俺と付き合うとか』



だって勉さんは大人で。


かっこいいし、モテるし。



ーーでも。



< 251 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop