金魚すくい


しかしフルフェイスのヘルメットを被った勉さんは聞こえなかったのか、シールドを開けて顔を近づけた。


ーーわっ。


思わず顔を引く。


間近で勉さんの顔を見るのはなんだか気恥ずかしい。



「何か言った?」



口元のほくろが妙に色っぽく見え、私は一瞬見入ってしまった。


だが、今度はすぐ我に返り、



「あっ、えっとどこに掴まったらいいのかと思って……」



戸惑う私の手を掴み、自分の腰に手を回した。


それは同時に勉さんに抱きつく羽目になり、再び私は戸惑った。



「ここにしっかり掴まってて」



そう言うとヘルメットのシールドを閉じ、再びエンジンを吹かせた。



「わわっ!」



勢いよく走るバイクに、勉さんの背中に、私の心はドキドキと音を鳴らす。


その音はバイクの音にも負けないくらい耳に響いた……。




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