金魚すくい


「柚子ちゃん……」



名前に反応して私はハッと目を見開いた。


意識を取り戻した私の前にいるのは、不思議そうに覗き込む勉さん。



「今日はほんとぼーっとしてるね。まぁ、久しぶりの幼なじみと会ったんだから仕方ない、か」



そう言って笑った。



「ごっ、ごめんなさい!」



折角誘ってくれたのに。


ごちそうにまでなって、その上送ってもらったのに……。


申し訳ない気持ちが、私の頭を深く沈める。



「ははっ、いいよ別に。また懲りずに声かけるからさ、柚子ちゃん」


「あっ、はい……」



あれ。


いつの間に名前で呼ばれてたんだろう……?



ポカンとした表情で見つめる勉さんの顔は、いつもと同じく朗らかだ。


口元のほくろが小さく笑い、



「柚子ちゃんの彼氏は大変だね」



そう言った。



「えっ? どういう……」



言葉の意味を聞く前に、またねと言ってヘルメットのシールドは降ろされ、そのまま片手を振って去っていった。


私は言葉の意味が汲み取れず、少しの間その場で立ち尽くしてしまった。



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