キミ想い
そうして、私たちは言葉を交わすことなくすれ違った……刹那。
ふわりと鼻をくすぐる香り。
それは高熱で意識が曖昧になっていた中、感じた香り。
ハッと顔を上げて振り向くと、香りの主であろう蓮の後姿が見えた。
もしかして。
もしかして、私を運んでくれたのは……
蓮なの?
憶測しながら私は、去っていく蓮の後姿を見送っていた。
私を運んでくれた人。
感じた香り。
同じ香りを持っていた蓮。
蓮が運んでくれたっていう確証はない。
蓮じゃないかもしれない。
けれど私は、蓮でいて欲しいと思っていた。
図々しい考えだと思ってる。
だけど、そうだったとしたら本当に嬉しい。