キミ想い
STORY29 【狂おしい愛の音】
「次は、区役所前、区役所前」
バス車内に流れるアナウンス。
降車ボタンが押された音がして、私はそれを耳だけで受け取りながら視線は携帯に落としていた。
液晶の中に写しだされているのはハルからのメール本文。
他愛ないいつもの文章のあとにあるその一文は、今からする私の返信内容を悩ませるものだった。
『佐伯に彼女ができたって知ってた?』
……なんて返すのがいいのだろうか。
驚いたようにする?
それとも知ってたよと答える?
正解なんてどう考えてみても出るわけはない。
こんな風に悩んでいる間に、ハルは何か勘繰っているかもしれない。
早く返さないとダメだ。
そんな気がして私は『そうなんだ』とだけ返し、他の話題を振った。
それが正解だったのかはわからない。
だけどハルからのその後のメールには、蓮の事は出てこなかった。
これで、いいよね。
私からは触れない。
そう決めて、私たちは穏やかな日常を送っていたのだった。
──けれど、その日は突然やってきた。