キミ想い


「……片桐、さん」


女生徒は、夏目さんだった。

夏目さんは気まずそうに視線を泳がせる。

何か言いたげに僅かに唇を開いたその瞬間。

──チリンチリン。

くわえタバコをしたおじさんが乗る自転車が、ベル音を鳴らして夏目さんの後ろから走ってきた。

結構なスピードに、私は夏目さんの手をひいて端に避ける。

私たちが避けると思っていたのかわからないけど、自転車はブレーキをかけた様子もないスピードで通り過ぎていった。

予想外のスピードだったのは夏目さんも一緒だったらしく、彼女は少し目を丸くして瞬きを繰り返す。


「あ……あり、がと」

「ううん。危ないよね。小さい子だったらぶつかってたかも」


眉根をひそめて言うと、夏目さんは小さく頷いてから……


「この前も、本当にありがとう」


僅か微笑まれた。

初めて見る、彼女の笑み。

私も自然と笑みが浮かぶ。


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