キミ想い
「あ、うん。それじゃあ……」
またねと言えない関係に、私は手を振ることもできないまま歩き出した夏目さんの後ろ姿を見ていた。
けれど、ふと、彼女が振り返って。
「……私を責めないの?」
唐突に聞かれる。
……確かに、どうして手伝ったりなんかしたのという気持ちはあって。
だけど、夏目さんが手助けをしなくても、私はきっと……
野宮さんから、嫌がらせを受けていただろう。
それに、彼女の態度を見ていると……
夏目さんは、巻き込まれてしまっただけだと思える。
だから、責めるという気が起きないのかもしれない。
何より……
「もう、謝ってくれたし」
苦笑いで伝えると、夏目さんは困ったように眉を寄せて。
そして、小さく会釈すると今度こそ歩き去っていった。
1人になると、いつの間にか遠くなっていた川のせせらぎが耳に届く。
私はひとつ大きく深呼吸をし、再び家へと向かって一歩を踏み出した。