キミ想い


「せっかく来てくれたのに申し訳ないけど、何もないよ?」


だから私は、ただ微笑んでみせる。

心配する事はないと、勘違いだよと笑ってみせる。

隠していると見抜かれたとしても……


「でも、心配してくれてありがとう」


私はただ、微笑んで否定する。


バカだね、私。

こんな事を蓮に対してするのは、何度目だろう。

好きな人に隠し事ばかりして。


痛みを伴うような静かな時間が流れ、やがて、沈黙していた蓮が口を開いた。


「……そうか。なら、いい」


あっさりとした言葉。

以前のように追求されるかと思っていた私は、拍子抜けして返答もせずにただ彼を見てしまっていた。


「どうした?」

「あ……ううん」


いけない。

これ以上追求されないようにと私は話題を探す。


……あ、そうだ。


私は立ち上がり、机の上に置いてあったケースを手に取った。

夏目さんから受け取った、データの入った小さなSDカードを。


< 362 / 404 >

この作品をシェア

pagetop