キミ想い


「さすがです、佐伯せんせー」


無理してる笑い方だったかもしれない。

それでも佐伯に笑って見せると、彼は立ち上がった私に手を差し伸べた。


「そろそろチャイムが鳴──」


そこまで言いかけて、佐伯が止まる。

私は手を伸ばし掛けて、佐伯の異変に瞬きを繰り返した。


佐伯の視線は窓の外。

だけどそれはほんの一瞬で、すぐに何もなかったように私に視線を戻した。


「どうしたの?」

「いや? それより教室に戻るぞ」


言いながら、今度は待つ事なく私の手を引いて起こしてくれる。

でも、私は気になってしまってた。

佐伯の視線の先に何があったのか。


だから……見てしまったんだ。

そのまま佐伯に促されて教室に戻れば良かったのに。

そうすれば、見る事もなかったのに。


< 66 / 404 >

この作品をシェア

pagetop