センチメンタル*宅配便


先輩は猫舌だからホットの飲み物を買う時はほどよく冷ましてから。


昨日、来なかったし、今日は私の分の飲み物だけでいいか。


でも、もし来たら、絶対、何か飲みたいって言うだろうから、私のをあげられるように無糖を選ぼう。

 
お昼休みになるとそわそわして、そんなことを考えて飲み物を選んでいる乙女な自分が少し恥ずかしい。


 

先輩には不思議な魅力があった。

 
「ふわぁ~、眠い。ちよこ、俺、昼寝するから」

 
先輩は欠伸をしながら両手を伸ばして、そのまま後ろに倒れた。


先輩が両手を上に挙げた時、ちりんと鈴の音が聞え、先輩が後ろに倒れた時、ちりんとまた鈴の音が聞えた。

 
先輩は右手の手首に赤い皮のブレスレットをしていた。


ブレスレットには小さな金色の鈴が付いていて、先輩が動く度にその鈴がちりん、ちりんと鳴るのだ。


鈴の音が聞えれば、近くに先輩がいる合図になる。



すーすーと寝息を立てて、先輩は本格的に眠り出した。


普段から香水も付けないし、タバコも吸わない先輩からはお日様の匂いがした。


その無邪気な寝顔を覗き込むと、この瞬間だけは先輩が私のだけの先輩になった気がする。


私に気を許してくれて、安心して眠っているんだなぁって嬉しくなる。


嬉しくなると同時に切なくもなる。


< 5 / 80 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop